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静かな退職の原因とは|個人と組織の要因を構造で理解する

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静かな退職の原因とは|個人と組織の要因を構造で理解する

【執筆・編集】コラム編集チーム
企業の人材育成や組織づくりに役立つテーマを中心に、記事制作・情報発信を行っています。

静かな退職とは、社員が会社を辞めないまま、契約上求められる必要最低限の業務だけをこなし、それ以上の貢献を意識的に控える働き方です。英語の quiet quitting を訳した言葉で、サイレント退職や静かなる退職とも呼ばれます。その原因は本人のやる気のなさの場合もあれば、職場で繰り返された小さな失望の積み重ねである場合もあります。怠けているのではなく、出しても報われないと学習した人が、自分を守るために選んだ撤退です。

あなたの職場でも、こんな光景はありませんか。半年前までは会議で真っ先に手を挙げていた若手社員が、いつの間にか議事録を取るだけになっている。周囲からはやる気なくなったのかなと見られてしまう。でも、よく話を聞いてみると、その若手が出した改善案が、二度続けて前例がないという理由で却下されていた。にもかかわらず、評価面談では「もっと主体性を持ってほしい」と言われる。案を出しても通らない、通らないのに評価も変わらない。そうした経験が重なると、人は少しずつ学習します。それなら、必要以上に動かないほうが合理的だ、と。本人は“やる気を失った”というより、“無力感を学習してしまった”のかもしれません。

この記事では、静かな退職を引き起こす個人要因と組織要因を分けて整理し、本人の問題なのかマネジメントの問題なのかをどう切り分けるか、そして離職の予兆としてどう読むべきかまで掘り下げます。

静かな退職とは|会社を辞めずに最低限の業務に留まる働き方

静かな退職とは、退職という形を取らずに、職務範囲内の最低限の仕事だけをこなし、残業や自発的な提案、役割を超えた貢献から距離を置く働き方です。物理的に会社を去るわけではないため、上司から見ると勤怠も成果も一見問題なく、変化に気づきにくいという特徴があります。

quiet quitting が海外で広まったとき、それは長時間労働や過剰な献身を求める空気、いわゆるハッスルカルチャーへの異議申し立てという色合いを帯びていました。日本で静かな退職という働き方として語られるときは、そこに価値観の変化や評価への失望が混ざり、もう少し複雑な背景を含みます。

混同されやすいのが、燃え尽き症候群との違いです。バーンアウトが心身のエネルギーを使い果たした状態だとすれば、静かな退職はエネルギーをどこに使うかを本人が選び直した状態に近い。前者は消耗、後者は配分の変更です。だから静かな退職をしている人が、私生活では生き生きしているということも起こります。仕事への意欲が消えたのではなく、仕事に向ける意欲の量を、本人が意図的に絞っている。ここを取り違えると、対策の方向を間違えます。

静かな退職の何が悪いのか。この問いも絶えません。契約上の義務を果たしている以上、それ自体を一方的に責めることはできない。問題は、人がそうせざるを得なくなった職場の側にある場合があります。

静かな退職をする人はどれくらいいるのか|データで見る現状

静かな退職をしている人は、いまや少数派ではありません。マイナビの「正社員の静かな退職に関する調査2026年(2025年実績)」では、静かな退職をしていると答えた正社員が46.7%にのぼり、前年より2.2ポイント増えました。 注目したいのは、その内訳です。同調査では20代が50.5%、30代が49.1%、50代が46.7%、40代が42.3%と、全年代で4割を超えていました。静かな退職は若者の問題、Z世代の働き方、と片づけられることが多いものの、この数字はそれを否定しています。ベテランも管理職一歩手前の層も、同じように最低限へと舵を切っている。若年層がやや高いものの、全年代で4割を超えて広がっていたという事実は、世代論で説明する限界を示しています。

出典:正社員の静かな退職に関する調査2026年(2025年実績)|マイナビキャリアリサーチLab

また、米ギャラップ社の調査では、日本で仕事に熱意を持てていない、エンゲージしていない層が7割を超えると報告されてきました(2022年時点で73%)。世界の労働者で見ても、熱意を持って働いている人は2割程度にとどまり、2025年には20%と2020年以来の最低水準に沈んでいます。熱意を持って働いている人のほうが、すでに世界的に少数派なのです。

出典:Japan's Workplace Wellbeing Woes Continue|Gallup(日本73%、2022年)

出典:State of the Global Workplace|Gallup(世界全体のエンゲージメント率の推移)

静かな退職の原因①個人要因|燃え尽き・評価への不満・ワークライフバランス志向

静かな退職の個人要因とは、社員一人ひとりの内面で起きる、仕事への向き合い方の変化を指します。燃え尽き、評価への不満、私生活を優先したいという志向の三つが代表的なものです。ただし、これらは純粋に個人の中だけで生まれるわけではなく、職場環境が引き金を引いていることもあります。

燃え尽きとモチベーションの枯渇

長く強い負荷がかかり続けると、人の意欲はある日急に底を打ちます。これがバーンアウト、燃え尽き症候群です。締め切りに追われ、休んでも疲れが抜けず、それでも成果を求められる。そうした日々が続くと、人は守りに入ります。全力で走り続けたら壊れると体が学習し、最低限のペースに落とす。静かな退職は、その自己防衛の最終形です。冒頭の若手も、改善案を出すたびにエネルギーを注いでは流される、を繰り返していました。注いでも返ってこないと分かれば、注ぐのをやめる。これは怠惰ではなく、消耗を避ける合理的な判断です。

評価への不満と不公平感

がんばりが正しく見られていない、という感覚は、意欲をもっとも速く削ります。成果を出しても評価が変わらない、声の大きい人だけが報われる、人事評価の基準が曖昧で説明もない。こうした不公平感が積もると、人は努力と報酬を切り離して考えるようになります。評価が上がらないなら、上がらない前提で働けばいい、と。先ほどの若手が主体性を求められながら提案を却下されていたのは、まさにこの矛盾です。

ワークライフバランス志向と価値観の変化

仕事を人生の中心に置かない。私生活や家庭、自分の時間を守る。こうした価値観は、いまや特定の世代に限らず広く根づいています。これ自体は健全な変化で、責められるものではありません。問題が起きるのは、会社の働かせ方がこの変化に追いついていないときです。やりがいや成長を語るだけで、長時間労働を前提とした仕事の組み方を変えない。すると社員は、求められる献身と自分の守りたい生活のあいだに線を引きます。その線が、静かな退職という形で表に出る。

静かな退職の原因②組織要因|マネジメント不足・成長機会の欠如・心理的安全性の低さ

静かな退職の組織要因とは、社員の意欲を引き出すはずの仕組みや関係性が機能していない状態を指します。管理職のマネジメント不足、報酬や成長機会の欠如、心理的安全性の低さが中心です。個人要因が結果だとすれば、組織要因はその原因にあたることが多い。

管理職のマネジメント不足

部下が何に困り、何を望んでいるかを、上司が把握していない。これが静かな退職を生む最大の組織要因です。1on1をやっていても、進捗確認だけで終わっていれば意味は薄い。変化のサインを意欲の問題と決めつけると、その先の対話が起きません。部下が議事録係に収まっていく過程には、必ず理由があります。それを聞き取らないマネジメントが、撤退を黙認してしまう。

報酬・成長機会の欠如とキャリアパスの不透明さ

この会社にいて、自分は何になれるのか。その問いに答えが見えないとき、人は足を止めます。給与が貢献に見合わない、昇進の道筋が示されない、キャリアパスが不透明で数年後の姿が描けない。成長の手応えがない場所で全力を出し続けられる人は多くありません。最低限で留まるのは、伸びしろの見えない環境への、静かな見切りです。

心理的安全性の低さ

心理的安全性とは、率直に意見を言っても否定されたり評価を下げられたりしない、という職場の安心感のことです。これが低い職場では、提案も異論も割に合わない行為になります。前例がない、で案が流される経験を重ねれば、人は口を閉じることを学ぶ。発言しないほうが安全だと分かった瞬間、その人は会議で手を挙げなくなります。冒頭の若手が議事録を取るだけになったのは、意欲を失ったからではなく、発言のリスクとリターンが見合わないと学んだからです。

静かな退職の兆候・サインはどこに現れるか

静かな退職の兆候とは、本人が口にしないまま、行動の量と質に静かに表れる変化のことです。退職届のように分かりやすい合図がないため、上司は意識して見ないと取りこぼします。

もっとも分かりやすいのは、発言量の減少です。会議で意見を言わなくなる、雑談に加わらなくなる、質問が来なくなる。次に、改善提案や役割を超えた動きが止まります。前は自分から拾っていた仕事を、指示があるまで動かなくなる。残業や自発的な対応をきれいに切り上げるようになるのも、それ自体は健全ですが、以前との落差が大きいなら一つのサインです。

ここで注意したいのは、成果や勤怠には表れにくいという点です。最低限の業務はこなしているため、数字の上では問題なしと判断されます。だからこそ、量ではなく前との変化を見る必要があります。冒頭の若手のように、手を挙げていた人が議事録係に収まったという落差こそ、見るべき兆候です。

なぜ優秀な社員ほど静かな退職に至るのか

優秀な社員ほど静かな退職に至りやすい。意外に聞こえるかもしれませんが、これには理由があります。期待に応える人ほど仕事が一人に集中し、その負荷が報酬や評価と釣り合わなくなったとき、優秀な人ほど早く損得を見抜くからです。

できる人には、できる人だから、と仕事が回ってきます。難しい案件、急ぎの対応、他人の尻拭い。本人も最初は応えようとします。ところが、増えた仕事に給与も評価もついてこないと気づいたとき、優秀な人は計算が速い。この働き方は割に合わない、と平均的な社員より早く結論を出します。能力が高いほど、自分の労力の市場価値を見積もれるからです。

しかも優秀な人は、最低限の線引きがうまい。手を抜いていることを周囲に悟らせず、評価を保ったまま貢献だけを静かに下げられます。だから上司は気づきにくい。成果が出ているうちは問題なしと判断され、その人が内側で会社に見切りをつけていることに、誰も気づかないまま時間が過ぎていきます。

ここに、静かな崩壊と呼ぶべき事態の入口があります。組織を引っ張ってきた人材が、辞めはしないが力も出さない状態で滞留する。表面の数字は崩れないのに、推進力だけが静かに失われていく。優秀層の静かな退職は、その意味でもっとも見えにくく、もっとも代償が大きい。気づいた頃には、組織を前に進めていた人たちは、もう力を出さなくなっている。推進力を失った組織だけが、静かに残されていきます。

本人の問題かマネジメントの問題か|原因の切り分け方

静かな退職を、本人の問題かマネジメントの問題かの二択で考えると、ほぼ確実に見誤ります。多くのケースは、環境が個人の意欲を少しずつ削った連鎖だからです。どちらか一方に原因を押しつけた時点で、打てる手の半分を捨てることになります。

切り分けの手がかりは、時間軸にあります。入社時から一貫して最低限の働き方なら、本人の志向や価値観の比重が大きい。一方、ある時期までは積極的だった人が途中から退いたのなら、その変化の前後に職場で何が起きたかを疑うべきです。冒頭の若手は後者でした。会議で手を挙げていた彼が議事録係になった。その境目には、案が二度流された出来事と、矛盾した評価面談があった。変化には、たいてい引き金があります。

もう一つの手がかりは、同じ上司の下で似た変化が複数起きていないか、です。一人だけなら個人側の事情も考えられますが、複数のメンバーが似た時期に静かに退いているなら、原因はマネジメントや評価制度の側にあると見るのが妥当です。個人の問題は分散し、環境の問題は集中して現れます。

実務上の判断としては、本人にヒアリングする前に環境を点検する、という順序を勧めます。理由は単純で、環境要因のほうが会社に打ち手があるからです。本人の価値観は変えられませんが、評価制度の不公平感や発言しにくい空気は、会社の側で直せる。原因の切り分けは犯人探しではなく、どこに手を入れれば変わるかを見極める作業です。

静かな退職は離職の予兆なのか

静かな退職は、必ずしも離職の直接的な予兆ではありません。むしろ静かな退職をしている人は、会社を辞めないことを選んだ人たちだという見方のほうが実態に近い。最低限の働き方で会社に留まる、というのは、退職という決断を保留した状態だからです。

辞めずに留まるのは、おもに環境への期待をすでに手放した層です。能力が高く市場価値のある人材は、静かな退職の状態を一時的な踊り場として使い、水面下で次を探します。表向きは最低限の仕事で評価を保ちながら、転職活動を進め、ある日きれいに去っていく。静かな退職を経て転職する、という経路をたどりやすいのは優秀な人のほうです。

だから静かな退職を離職率という数字だけで監視していると、危険なサインを見落とします。辞めない層が静かな退職で滞留して生産性を押し下げ、辞める可能性の高い優秀層は数字に出る前に動いている。エンゲージメントサーベイや1on1で意欲の低下そのものを早期につかむほうが、離職届を待つより実用的です。静かな退職は離職の予兆というより、人材流出と生産性低下が同時に進む、その入口だと捉えるのが正確だと考えます。

静かな退職のきっかけを生まない組織づくり

静かな退職のきっかけを生まない組織とは、社員の貢献がきちんと見られ、報われ、率直に話せる場が保たれている職場です。マイナビの調査は、静かな退職のきっかけを、仕事や環境の不一致、評価への不満、損得重視、無関心という四つの型に整理しています。逆に言えば、この四つを起こさないことが予防の輪郭になります。

最初に手を入れるべきは評価です。求められる行動と報われる行動を一致させる。主体性を求めるなら、主体的に動いた人が実際に報われる仕組みにする。提案が流されるのに主体性を説く、という冒頭の矛盾を消すだけでも、不公平感はかなり下がります。

次が対話の質です。1on1を進捗確認の場で終わらせず、何に困り、どこに不満があるかを聞く場に変える。部下の変化を意欲の問題で片づけず、その手前で何が起きたかを一緒に探る。管理職にその聞き方を身につけてもらうことが、静かな退職の早期発見につながります。

成長機会の設計も欠かせません。キャリアパスを示し、社内で次に挑める役割を見せる。働き方の面では、時短や在宅、職務範囲の選び直しといった多様な働き方の制度を整え、私生活と仕事の線引きを本人が無理なく描けるようにする。柔軟な制度は、最低限へ撤退する前の逃げ道として機能します。

そして、率直に話せる空気を守ること。前例がないという理由だけで案を切らない。異論や提案を出した人が損をしない職場であれば、人は会議で手を挙げ続けます。心理的安全性は、特別な制度ではなく、日々の小さな反応の積み重ねでつくられます。働きがいや従業員エンゲージメントを高める取り組みも、こうした土台のうえで初めて効きます。

付け加えるなら、AIの導入で定型業務が機械に移っていくこれからは、人にしか出せない提案や工夫の価値がいっそう重みを増します。社員が最低限へと撤退し、提案を出さなくなった組織は、その人間ならではの強みを自ら手放すことになる。静かな退職を防ぐことは、これからの競争力を守る話でもあります。

静かな退職は、当たり前の働き方として静かに広がっています。それを個人のやる気の問題と片づけているうちは、何も変わりません。きっかけをつくっているのは職場の側だと認めるところから、対策は始まります。

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